なんだか、売れすぎで都内では売っていないなんて話もあるようですが、地元の本屋には普通に並んでいました。
ポップやらポスターやらで特に強調されるわけでもなく。
感想は、濃縮された村上春樹、という感じです。
「ウイスキー」、「セックス」、「シャツにアイロンをかける」の3つが歴代最速で揃ったのではないかというくらいの濃縮です。
一方で「やれやれ」は遅く、また意外な使われ方をします。
「カティーサーク」や「小人」、「地下鉄サリン事件」、「メンヘラ」などが出てきて、村上春樹の世界が凝縮された感じがして、村上春樹好きにはたまらないのではないでしょうか?
主人公の夢が現実につながっているような錯覚も、これまでに見られたものです。
こういった、これまでの村上春樹作品で見られたものが370ページの前半で見られるという一方で、それが濃縮され過ぎてつまらないというか、その分量に小説の世界を楽しめない感じもあるかもしれません。
しかし詰め込まれている感はありますが、色々な変化があります。
特に会話の口調や、人の呼び方、「色彩を持たない」という意味合いなど。
これは怪しい人材教育会社を営む同級生に会うところから変わっていき、カティーサークで行ったり来たり、そういう所は面白いし、半分を過ぎた頃からは読む側に解釈の幅をかなり持たせます。
特に「色彩を持たない」のは誰なのか?というのは気になると思います。
色の三原色・光の三原色を混ぜあわせた黒・白も「色彩を持たない」と読めるかもしれません。
沙羅も「色彩を持たない」と言ってもいいでしょう。
後半は含みが多いというか、捉え方はいくらでもあるような感じがするので、何度も読むには面白いと思います。
タイトルにある「色彩」や「巡礼の年」はもちろんのこと、意味深な言葉がいくつもあります。
また、内容にはあまり関係ありませんがtwitterやFacebookなどの言葉もでてきます。
現代的な感じを匂わせることは意外でした。
その割には携帯じゃないの?とか思うところもあって変な感じですが、これは主人公が15年近く時間が止まっているようにも感じられます。
主人公は大学に入ってから15年以上同じマンションに住み続けているところにもそれは現れていて、主人公と同年代の私は、大学から進んでいないような時間を感じる時があるので、そう思うのかもしれません。
ところで、エヴァンゲリオンから新劇版未完成の現在までは、ファーストガンダムからエヴァンゲリオンが出来るまでより長い時間が経過しています。
ファーストガンダムが様々なアニメに影響を与え、様々なアニメが出来、その一つがエヴァンゲリオンであるにも関わらず、エヴァンゲリオンからはそこから何も進んでいないという感覚は「多崎つくる」に繋がるものを感じます。
大学1年の時に再放送で見たエヴァンゲリオンの映画を未だに楽しみにしているくらい、時間が進んでいない。
経済的には失われた10年とか20年とか言いますが、それよりも実感を伴って時間の経過がわからない。
実感のない進んだ時間に無理やり肉付けをしよう、というのが今回の小説でもあります。
後から進んだ時間をどう理解し、取り入れるのか、この辺は読む側に投げっぱなしているようにも思えるので、「多崎つくる」と同世代にこそ面白いのかもしれません。
色々な点で面白かったのですが、ただ、私の中の村上春樹の上位3位には変動がありませんでした。
ちなみに
1位、ねじまき鳥クロニクル
2位、ノルウェイの森
3位、アフターダーク
です。
色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
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村上 春樹
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