2014年10月27日月曜日

何がわかるのか?何が問題なのか?注目されている遺伝子検査まとめ

遺伝子検査が注目されています。

最近、遺伝子検査が注目されています。
例えば女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが遺伝子検査を元に、乳房の切除を行ったことは大きなニュースになりました。
遺伝子検査を行った結果、乳がんのリスクが高かったため、予防的に乳房を切除を決断したというニュースです。
遺伝子検査というと、親子関係を照明する手段というイメージや犯罪捜査に使われるイメージでしたが、アンジェリーナ・ジョリーさんのニュースは違いました。
ガンを予防するために遺伝子検査を行われていて、健康を維持するために行われていました。
この遺伝子検査は特別で、ハリウッドのセレブのような一部の富裕層だけが行えるのかと思いましたが、そうではありません。
日本でも遺伝子検査サービスを開始する企業が増えていて、1万円程度から3万円程度で行うことが出来ます
この値段は富裕層向けのサービスではありません(とは言え、数十万円から数百万円の遺伝子検査もあるそうです)。
最近ではDeNAが遺伝子検査サービスに参入することで話題になりましたし、ファンケルも参入し検査結果を元にサプリメントなどを推奨するサービスを開始します。
遺伝子検査というと、何か未来をイメージしますが、いつの間にか健康促進の一つの手段となっていて、それはすぐそこにあります。

そもそも遺伝子とは?

遺伝子検査について知るまえに、そもそも遺伝子ってなんぞや、という話です。
遺伝子と同じような言葉にDNAがありますが、同じようですが別のものです。
ざっくりと言うと遺伝子は情報を指し、DNAは情報を記録している物質を指します。
DNAの中に遺伝情報を記録している部分があり、その情報が遺伝子です。
遺伝子はどんな情報なのかというと、タンパク質をいつ、どこで、どれだけ作るのか、という情報です。
生物を構成するものは、一番多いものが水分で、その次がタンパク質です。
このタンパク質を作るための情報が遺伝子です。
その遺伝子はどうやって情報を持っているのかというと、塩基の並び塩基配列です。

遺伝子と塩基とSNP

塩基は約30億個あり塩基1000個から2000個に一個程度の割合で、人によって違うことがあり、それは一塩基多型(いちえんきたけい)、SNP(スニップ)と呼ばれています。
このSNPにより髪の色や眼の色などの差に繋がっているほか、病気になりやすい、薬が効きやすいなどの差に繋がっています。
ヒトゲノム全体で1000万程度のSNP、遺伝領域で100万程度のSNPがあるとされています。
科学技術振興機構と理化学研究所の共同研究により、約20万のSNPと病気との関係(頻度)を調べた結果が公表されており、こういった統計学的な調査結果が遺伝子検査に利用されています

遺伝子検査にもいくつか種類がある

遺伝子検査を大別すると、病院で行うものとそれ以外があります。
ざっくりと言うと病院で行う遺伝子検査は治療目的、それ以外は治療目的ではないものです。
(法律により医療行為は医師にのみ認められているので、医療や治療を目的とした行為は医師以外は行えません)
病院で行われる遺伝子検査はガンの早期発見などの発生前診断や感染症の発見を目的としたものが中心ですが、現在注目されている病院以外で行われる遺伝子検査は、自分がどんな病気になりやすいのか統計学的に判断することが目的です。
どんな病気にかかりやすいのか、どうして統計学的に知ることができるのか、それはSNPが大きく関係しています。

このような遺伝子検査は治療が目的ではないので、現在の健康状態を調べるわけではないことは理解しておかないといけません。(今のところ遺伝子検査は健康診断とも違う、特殊な立場にあります)
現在の健康状態ではなく、将来発生するリスクの高い病気を知ることができるため、遺伝子検査が注目されています。
注目されているということは、現在の健康状態を知るために健康診断、人間ドックだけでは十分ではない、という認識があるのでしょう。
それは、現在の健康状態だけでなく将来の事を考えて生活環境を見直したいと考えている人が増えているからでしょう。

遺伝子検査で何がわかるのか?

病院外で行われる遺伝子検査は統計学的に発症しやすい病気、リスクが高い病気を知ることができます。
SNPにより外観だけでなく体質が異なることがわかっているので、多くの遺伝子検査サービスでは全ての遺伝情報を検査するわけではなく、SNPに絞って検査を行います。
SNPと病気の頻度というのはある程度統計学的に調査が進んでいるため、遺伝子検査はSNPを調べ、統計的になりやすい病気を調べるサービスと言えます。
SNPはそれだけで100万程度あると考えられていますが、その全てについて検査をすることは現実的には難しい(数十万円から数百万円程度の費用が必要になる)ため、特徴的なSNPについてのみ検査を行うものが主流です。
どういった項目について検査を行うのかは料金によって異なります。
例えば、DeNAのMY CODEという遺伝子検査サービスでは29800円のコースでは282項目、19800円のコースでは100項目、9800円のコースでは30項目とわかりやすく、差がついています。
282項目のコースの場合、ガンだけで39項目、生活習慣病が19項目、それ以外の病気が94項目について、SNPに基づき統計的にどんな病気にかかりやすいかどうかがわかるようになっています。
他にも薬の効きやすさ、副作用の起こりやすさなどもSNPにより傾向が把握できることから、将来的には治療の方針を遺伝子検査で決定する、という方向で進んでいます。



遺伝子検査を行うメリットは?

注目されている遺伝子検査ですが、どのようなメリットがあるのでしょうか?
例えば肥満は遺伝的な影響が強いと言われますが、同じように環境的な影響も強く受けます。
遺伝子検査で肥満のリスクは低いとされても、生活環境によって簡単に肥満になります。
しかし、遺伝的に肥満のリスクが高いと知っていれば、生活環境を改善する意識も高まり肥満を避けることが出来るかもしれません。
よく”ガン家系”なんて言うことがありますが、遺伝子検査により本当にそうなのか、ある程度わかります。
遺伝子検査により全てのガンのリスクを評価できるわけではありませんが、遺伝的に発生しやすいガンのリスクを知ることができます
特定のガンに対するリスクが大きければ、定期的ながん検診を行い、できるだけ初期のうちに処置するなどの対応策が考えられます。
例えば乳がん、前立腺がんは遺伝的な要素が強いガンの一つですが、乳がん検診を定期的に受けていれば乳がんで亡くなるリスクはだいぶ減らすことができます。

知ることのデメリット

一方で、遺伝子検査サービスによっては、意図的に遺伝的に発生しやすいガンを調査項目としていないものもあります。遺伝的にガンになりやすいことを知る心理的影響などを考慮すると、必ずしも知らないほうがいい可能性もあります。
ガンになりやすい事を知ることで、それをポジティブに捉え人生設計を行える人もいると思いますが、ポジティブに捉えられない人も多いでしょう。
ガンに怯えて、民間療法に頼るなどは遺伝子検査サービスを行う側の意図するものではありません。

ガンや生活習慣病についても同様で、発生リスクが高いとわかっていれば、予め対策をたてることも出来ます。
将来的には、遺伝子検査の結果をもとに効きやすい薬や逆に副作用が強い薬などが把握できると考えられており、それを治療方針に活かすことが期待されています。



遺伝子検査はどのように行われるか

遺伝子検査には病院で行われるものと、それ以外のものがあります。
最近注目されているタイプは病院以外で行われるタイプです。
注目される理由の一つに手軽さがあります。
病院で行われる遺伝子検査は採血を行いますが、病院で行われない遺伝子検査の多くは唾液を採取するだけです。
採取というと仰々しいですが、よだれを容器に入れるだけです。
以前は口の中の粘膜を採取する方法もありましたが、現在では唾液で行われるものが主流となっています。
唾液に遺伝子が含まれるのか?という気もしますが、唾液には白血球が含まれ、この白血球が持つDNAを元に遺伝子検査を行うそうです。
血液が最も適しているとされていて、血液から行う遺伝子検査と唾液から行う遺伝子検査には若干の差があるようですが、唾液からの検査でも十分に実用の範囲内とのことです。
遺伝子検査のサンプルとして固体よりも液体の方が適しているようで、唾液が最も手軽に行え、精度も十分であることから唾液が使われるようになりました。
唾液を採取する前に歯を磨いたり、30分から1時間程度食べない、などの制限がありますが、その程度の制限しかありません。
唾液で検査を行うことができるので検査のために病院などへ行く必要はなく、サンプル採取キットを使って採取した唾液を郵送する手軽さです。
検査は郵送の他、ネットでも見ることが出来るのが一般的です。
検査結果を基にしたカウンセリングを提供しているサービスも多くあります。

遺伝子検査の問題点

メリットだけではなく遺伝子検査にはいくつか問題点もあります。
例えば消費生活センターに寄せられた相談には以下の様なものがあります。
・遺伝子検査でガンのリスクが低いとされたが、ガンが発症した
・複数の遺伝子検査で全く異なる検査結果が出た
・遺伝子検査後、高額なサービスの勧誘が続いた

遺伝子検査の難しさに、検査結果の評価の仕方があります。
遺伝子検査はSNPをもとにガンや生活習慣病の発生リスクを統計学的に推定するものですが、必ずしも十分なデータが集まっていないケースがあります。
SNP自体は100万程度あるとされ、100万のSNPと各種疾患の関連の調査は途中段階と言えます。
そのため、遺伝子検査がどの学術論文を元にしているかで発生リスクが大きく異ることはあるようです。

例えばGIGAZINEの記事では3つの遺伝子検査のうち、全く真逆の結果が出たと書いてあります。
「DNA検査」を3つ同時に受けてみたら明らかになった興味深い事実とは?
http://gigazine.net/news/20140109-dna-test-various-results/
病気によっては人種によっても発生リスクが異なる他、生活環境によっても発生リスクが異なります。
また、学術論文によっても差があります。
こうした違いが重なると、遺伝子検査サービスによって、異なる結果が出る、全く真逆の結果になるという可能性はまだまだあるようです。

ガンの発生リスクが低いという結果にも関わらずガンが発生するというケースは、今後精度が高くなってもありえます。
ガンの中には遺伝的リスクによる影響が強いもの、生活環境による影響が強いもの、がありますが、遺伝的リスクが低いといっても発生しないというわけではありません。
統計学的に少ないとはいえゼロにはなりません。
また、遺伝子検査には初期ガンの発見を目的としたものもあり、そういった遺伝子検査とSNPを検査する統計学的な遺伝子検査との混同もあります。
現在指摘されている遺伝子検査の問題点の多くはユーザーの認識不足に由来しています。
遺伝子検査では統計学的な傾向がわかるだけで、現在の健康状態や病気の進行についてはわかりません。
また、統計学的な傾向であり、リスクが低い病気を発症しないわけではありません。
リスクが低いものであっても生活環境や生活習慣によって発症する可能性は十分にあります。
体質を知ることで健康維持に活かす、というのが目的であり、健康状態やガンの進行具合について知ることができるサービスではありません。
利用同意書にはこういった事が書かれているはずですが、必ずしも理解が得られていないのが現状です。

また、遺伝子検査後に高額なサービスの勧誘がくるケースというのは少なくないようです。
金額を別にすれば、恐らくほとんどの遺伝子検査サービスは健康管理に関する相談や、サプリメントなどの販売を併せて行っています。
例えばファンケルでは遺伝子検査の結果を基にしたサプリメントを月額数千円から3万円程度で販売することを予め示しています。
もちろん遺伝子検査だけ行いサプリメントは購入しない、という選択も可能です。
しかし、遺伝子検査の結果を一時的に企業側に知られる事であり、究極的な個人情報とも言える遺伝子検査結果は今後その扱いについて企業倫理が問題視される可能性はあります。
日本では病気のリスクを判断する遺伝子検査サービスは血縁関係の調査などには使われていませんが、アメリカではユーザー側が同意すれば遠い親戚を探すことも可能になっているサービスもあるようです。
遺伝子検査を受けたら謎のアメリカ人から連絡がきた
日本のサービスでは現在のところ同様のものはありませんが、慎重に企業を選んだ方がいいかもしれません。

遺伝子検査では重大な病気が発生するリスクがわかります。
将来は、遺伝子検査により一人ひとりに対して効果的な医療法が見つかると考えられています。
逆に効果的な医療方法が見つからないという可能性もあります。
そういった事がわかって来たとき、医療保険などの保険料が高くなる、安くなるというような影響を及ぼす可能性はあります。
現在は遺伝子検査を必要とする医療保険はありませんが、将来はそういったものが生まれる可能性は十分にあります。
そうなった時、提供された遺伝子情報の扱いについて倫理的な問題は新たに生まれる可能性はあります。

まとめ

病院で行われない、遺伝子検査は手軽に行え、重大な病気のリスクについて知ることが可能です。
ただし、その精度は病気によっては十分とは言えないものもある。
今後は遺伝子検査が普及し、研究が進むことで精度も向上することが期待できるが、あくまで統計学的なリスク判断であり、可能性の範囲に留まる。
可能性の範囲とは言え、その情報を基に生活習慣、生活環境を見直すことができ、さらには人生設計にも関係してくる。

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